名探偵コナンは、白い粉を味見して、「これは、麻薬‼︎」と言っていた。「麻薬」の味を知っていれば、味で「麻薬」とすぐにわかるだろう。でも、麻薬と言っても、いろいろな原料があり、いろいろな種類が存在するのだけど…。
中学校1年生の理科、化学分野では、化学の基礎となる、そもそも物質とは、ということから学習が始まる。手元の教科書には、このように書いてある。
私たちの身のまわりには、いろいろなものがある。ものをつくっている材料に注目するときには、それを物質という。たとえば、はさみやものさしという場合はものの名前だが、鉄やプラスチックというときには物質を表す。
大日本図書 新版 理科の世界1
物質は、それぞれ性質が異なる。そして、もちろん物質を作っている原子の組み合わせが異なる。中学校1年生の授業では、加熱すると炎を出して燃えるか、燃えたときに二酸化炭素を出すか、水に溶けやすいかなど、その物質の性質を調べる。
「ペロッ……こ、これは、砂糖!!」
ここに白い粉がある。この粉が、砂糖、食塩、小麦粉のうちのどれだろう、という課題を与える。生徒たちは、どうやって答えに行きつこうとするだろうか。
- 加熱する。
- 水に溶かしてみる。
- 触ってみる。
- 食べてみる。
確かに食べてみればわかる。しかし、理科室でやる実験である以上、安全性の確保のため、なめたり、食べたりすることはNGである。
「ペロッ……こ、これは、食塩!!」
味覚というのは、物質を大雑把に分類するのには、使えると思う。しかし、同じ物質なら、同じ味がするというのは、誤解だ。
例えば食塩。大きなスーパーに行けば、たくさんの種類の「しお」が売られている。食塩の主成分は「塩化ナトリウム(NaCl)」である。たくさんの種類と言っても、それらの成分のほとんどは、塩化ナトリウム(NaCl)なのだ。微妙に別の成分が入っていると言っても本当に微量であり、誤差に収まる。それでも、味見をして比べれば、確かに別の味がする。
人間の味覚は怪しいので、容器を変えるだけでも、湿り具合を変えるだけでも、違う味と認識してしまう。
祐天の学習で、試験管の中の、食塩を高熱で融かす実験をすることがある。いちど融かして、冷やして固まった食塩の粒は、もとのさらさらの食塩より、苦味が強く感じられる。これは本当に不思議だが、僕にはそう感じられる。生徒に味見をさせると、やはり、もとの食塩よりこい味がするという感想が返ってくる。
「ペロッ……こ、これは、焼酎!!」
飲み会の席で、焼酎のお湯割を作るとき、焼酎とお湯のどちらを先に入れるかが話題になることがある。物質としては、全く同じはずなので、同じ味だと思う。それなのに、すごく大きな違いでもあるように、その順番を指示する人がいる。正解は、お湯が先とのこと。お湯を入れて、後から焼酎を入れることで、おおきな対流がおきて、コップの中の温度分布が均一になるのだそうです。
「ペロッ……こ、これは、ビール!!」
ある瓶ビールを購入したとき、ついてきた注ぎ方を紹介した小冊子に書かれていた小冊子に「3度注ぎ」が紹介されている。
ホップ本来の苦味と見事な泡を作り出す、「エーデルピルス」が推奨する注ぎ方
職人のこだわりが込められたビールは、こだわりの技で注がれることで、そのうまさを最大限に発揮します。ちょっとしたコツとともに、ビールを丁寧に注ぐだけ。まず、ビールが泡立つように9割程度まで勢いよく注ぎます。泡が半分くらいに落ち着いたら最後勢いよく注ぎ、泡を盛り上げます。最後にもう一度静かに注ぎ出し、泡を2cmほどこんもりと盛り上げます。これが、ビールの本場・ドイツやチェコで受け継がれてきた「3度注ぎ」。豊かな泡を作り出し、本物のピルスナーを誰よりも美味しく飲んでいただくための、作り手の領域を超えたこだわりです。「3度注ぎ」でふんわりとした「スフレ泡」が出来あがれば、ホップの華やかな香りがさらに引き立ちます。
サッポロビールのエーデルピルス瓶についてきた能書きブックレットより
文章だけではわかりにくいので、図にしてみた。
僕は、エーデルピルスだけでなく、あらゆるビールを注ぐときに、これを実際にやっている。確かに、味は変わるのだ。
理科的には、確かに、同じ物質。だけど、注ぎ方だけで、泡のようすは変わる。そして、味も香りも大きく変わるのである。味覚というのはとても奥が深い。
名探偵コナンがやっているのは、「ペロッ……こ、これは、ビール!!」と言っている程度のものだ。味覚というのは、もっと細かな違いを見つけることができる優秀なセンサーなのである。